No.1
消えていった気持ちに意味はあるのだろうか。
深夜に帰宅し、赤く点滅する電話機の留守電ランプを見て、思わずため息が零れる。
今時、僕に連絡が取りたいならば、自宅ではなく携帯電話にかけてくるであろうことは理解している。きっと再生しても流れるのは機械的なピー音か無言、セールスの類で、僕の焦がれる彼女の声ではないと、それも理解している。
理解しているというのに、再生ボタンを押す前に煙草に火を付け、
何てことないというポーズをする自分が余りに滑稽で、悲しい。
愛情は恋しさとイコールではない。
だからこそ、僕らは離れた。
愛していれば相手を大切に出来たはずだ。慈しめたはずだ。
でも僕らは傷つけあってしまった。
理解して欲しくて、傷つけた。
相手を受け入れるような度量もなく、否定することで理解を得ようとやっきになった。
てんで子供だったんだ。笑ってしまうくらい。
ベランダで燻らす煙草は少し寂しい。
いつもなら足元に彼女が腰掛けていたから。
俯くと思わず彼女の影を探してしまいそうで、僕は上を向いた。
都会の煤けた星一つない夜空に、
消えていったはずの気持ち、離れる前に抱いたあの好きと怒りがごちゃまぜになった、
複雑でいて、乱暴で、壊れそうだったあの気持ちがそこには広がっていた。